音楽センスを伸ばしたい!

音楽ライター山本美芽による、ピアノレッスンに関する取材日記です。

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常識は国によって違う。アメリカで出産してみて(2)

ずいぶん間があいてしまいましたが、アメリカ出産についての記事の続きを書いてみます。

 日本では普通分娩で5日入院でした。でもアメリカでは1泊2日もしくは2泊3日。私の入っている医療保険では、赤ちゃんが生まれてから48時間まで保険がきく、といわれていました。なのでちょうど2泊3日でした。

 ちなみに帝王切開の場合、日本では2週間ぐらい入院ですが、私のアメリカの友人は5日で退院したとか。

 なぜすぐに退院させられちゃうの?
 それは医療費が高いからです。

 今回の私の入院、2泊3日で200万ぐらいかかったらしいです。
 ただし、ほとんど保険がききました。
 日本での出産費用は、保険なしで50万ぐらいでした。

 そうそう、200万は出産と入院、それプラス、麻酔の請求書が来ていて、それは10万ちょっと。あの「ぶすっ」で10万かぁ…。こちらは1割だか2割だか忘れましたが、ごく一部を負担すればよいだけです。

 確かにね、2泊3日で200万ですから、5日いたら400万ですか・・・。早く退院させられてしまうのも仕方ないかも。

 今回私が入院した病院は、産む部屋も、産んだあとに入院した部屋も、どっちもホテルみたいな個室。ひとりがけのソファがあって、絵も飾ってありました。これに対して日本で産んだときの病院では、産む部屋は分娩台が4つぐらい並んでいて、隣でも誰かがうなっていました。入院した部屋は6人部屋で、カーテンの仕切りしかない。ものすごい違いです。

 看護婦さんの人数も多くて、やさしくしてもらったし、まあ、高いだけのことはありました。まあ、前回も今回も、たまたま一番家から近い総合病院で産んだら、たまたま「並」だった、たまたま「高級」だった、ってだけのことかもしれませんが…。

 無痛分娩だったのと、トラブルもなく元気だったおかげで、2泊3日で家に帰っても、とりあえずなんとか赤ちゃんの世話はできました。ただ、ご飯の支度までは無理だったろうなー。日本から母が手伝いに来てくれて、食事の準備やその他家事全般を引き受けてくれていたので、なんとかなったようなものです。

 アメリカ人のパパは、産後4週間は会社を休んで、食事づくりから上の子の学校の送り迎えなど家族のお世話に専念するのが普通なんだそうです。うちの夫の会社では双子が生まれた人がいて、その場合は6週間休んでいいんだとか。実際に「生まれた」とある日突然彼は休みに入り、代わりの人がいるわけでもなく、残された人たちでカバーする仕組み。これが普通で、権利なんだとか。最初に聞いたときはびっくりしましたが、良いシステムですね。
 日本人駐在員はさすがにそんなに休めなません。でも、退院の日からしばらく夫は何日か休んでくれました。「奥さんが出産した」というと、日本よりは多少休みがとりやすい雰囲気のようです。

 赤ちゃんのお世話のしかたは、まあ日米でさほど違うわけでもないものの、使い捨て哺乳瓶に、液体ミルクが売っているのはびっくりでした。ミルク本体はプラスチックの入れ物に60ccぐらい入っていてフタをはずし、乳首のほうもプラスチックで、これまたパッケージをはがし、ミルク本体の上に乳首を装着、飲ませる、捨てて、授乳終了です。

 日本では夜中の授乳のときに、お湯をミルクに入れてさまして、飲ませて、洗って、消毒して…小一時間かかってましたので、「こんな便利なものが!!??」と目が点になりました。まあ環境にはやさしくないですが、
夜中にミルクの準備やらあれこれやっていると、ただでさえ新生児は2時間おきに起きるのに、睡眠時間がまったくなくなってしまってフラフラのボロボロになってしまいます。昼間は普通に作ったミルクを飲ませましたが、夜中は使い捨てボトルを活用し、おかげでかなり睡眠時間が稼げました。

 ちなみに日本では哺乳瓶は電子レンジで熱湯消毒が当たり前。しかしアメリカのべビザラスで、消毒グッズを探してもみつからないのです。(あとで、売っている場所もあると判明しましたが、あまりポピュラーではありません)。いろいろ聞いてみると、はじめて使うときに熱湯消毒をすれば、その後は日本式の「消毒」は、しないらしい!!!! 乳首部分だけ食器洗い機のお湯で洗い、ミルクボトルは「プレイテックス」というプラスチックの袋を入れて、それを使い捨てにします。

 上の子を産んだとき、連日の半分徹夜状態のさなかで、明け方に朦朧としながら「消毒っ、消毒しなきゃ」と電子レンジに袋を入れ、消毒が終わるまでの3分間にソファで爆睡してしまい、3分過ぎたレンジが「ぴぴっ」「ぴぴっ」と鳴り続けるのに眠すぎて起き上がれない状態で30分以上過ぎ、やっとの思いで起き上がってレンジのスイッチを止めたら、朝刊の新聞配達が届く「ゴトッ」という音が…えーっもう、朝なの? がくっ… そんな日々が辛かったものです。しかし、消毒しなくていいんですか? 食器洗い機でよかったんですか?? それならそうと、早く知りたかったなあ。

 消毒といえば、母乳をあげるまえに、日本では自分のおっぱいを「清浄綿」で消毒していました。しかしアメリカでは「消毒しなくていい」…。誰も消毒しないで、いきなりぼーんとおっぱいを出して赤ちゃんに含ませています。いいんですか? そうだったの?? これはネットで調べてみると、母乳には殺菌作用があるし、毎回消毒の成分を赤ちゃんになめさせることにもなるので、消毒はしない…ということのようで。したがって「清浄綿」が売ってないんです、少なくとも私は発見できず。一応私は日本から買ってきてもらって、最初のうちは使っていましたが、最近はだいたい省略してます。別に平気みたいですねぇ。生真面目にずっと1日何回も消毒していた5年前の私って…。 
 
 今思えば、日本で産んだとき、私はたいして情報収集もせず、行った病院で指導されたのが「常識」で、絶対に守らなくちゃいけないんだと信じ、そのとおりにしようとして疲れきってしまっていました。まるで、ピアノのレッスンで、なんとなくめぐりあわせで習った先生に「この本をやりなさい」といわれ、いやだけど我慢していたのと似ているかも(笑)。

 ほんとに、日本でフラフラになりながら大変な思いをしてやっていた、「やらなくちゃいけないこと」が、アメリカでは全然やらなくていい…というのを今回いくつも経験しました。素直にものごとを受け入れるのは大事なことですが、常識っていうのは場所により人によりかなり違うのは本当なんですね。「しょうがない」とあきらめる力も人生には大事だけど、「ほんとにそうなの?」と疑って、調べてみる姿勢も大事なのだと改めて思いました。


お産が近づいた臨月のころ、とにかく毎日おなかが苦しい、胃もたれに足がむくみ、腰が痛くて眠れない等々、家ですごしてはいましたが、ほとんど病人のような状態でした。そのときにむしょうに聴きたくなったCDがこれ。

ペイント・ザ・スカイ 〜ザ・ベスト・オブ・エンヤ
ペイント・ザ・スカイ 〜ザ・ベスト・オブ・エンヤ
エンヤ

なぜエンヤなの?? と考えてみましたが、結局、エンヤの声は柔らかい裏声で、音の立ち上がりがソフトなんですね。歌でも、地声発声はどうしてもキンキンするし、オペラ式のベル・カントも張りがあるから、体が弱っているときにはうるさく感じます。クラシックも、ピアノの音、バイオリンの音、みんな音の立ち上がりの「がつん」という感触がうるさく思えて聴きたくなくなりました。エンヤのふわぁ〜っとした声が、つらさを包んでくれるようで、とても心地よくて、エンヤばっかり聴いていました。病気のお見舞いなんかに良いかもしれませんね。