昨年の秋から、大人のピアノの生徒さんがいらしてくださり、月に2回レッスンしています。ご近所に住むママ友さんなのですが、大学時代まで続けていて、バッハのインベンションは終わっているという上級に手が届くかという、かなり弾ける方。
それでもずっと長い間弾いていなかったので、「ぜんぜん弾けません」とおっしゃって、はじめはブルグミュラー25の練習曲からやり直してみました。するとあっという間に調子を取り戻されて、新しく取り組んだドビュッシーのアラベスク1番やモーツァルトのトルコ行進曲なども、子育てに忙しいのに、一ヶ月ほどでだいたい形になり、教えている私のほうが驚いてしまうほどの上達ぶり。
より美しく響く音の出し方や、音楽の流れにあった感じ方や意識の持ち方、弾きにくいところの攻略法などを一緒に考えていると、30分があっという間です。
限られた時間で、あれもこれもと欲張っていると、いくら時間が合っても足りません。何ができていて何ができていないのか、いま一番問題なのは何か、そのなかで、いますぐ気をつけて改善しそうなことを何か、一度通して弾いてもらうのを聴きながら猛烈な勢いで計算して、コメントする。音を聴いて何か焦点を探し、そこをことばにして深めていくという部分は、音楽ライターの仕事とも重なるものがあります。
ドビュッシーのアラベスク第1番のなかで、「ここの和音って、どうも私には三か月ぐらいの赤ちゃんの寝顔のイメージなんですよね…そういえばあそこのアパートに赤ちゃんがいるの知ってます!? この前、お母さんがベビーカー押しているの見ちゃった!!」「あ、私も見まし た!! もう〜かわいすぎて胸がきゅ〜んんと・・・」「あの赤ちゃん、なんか大きくて、こっちを見て笑ってくれたんですよね」「そうそう、三か月ぐらいっていってましたけど、すごく愛想をふりまいてくれて…」「…私には、この和音は、赤ちゃんが寝てるイメージなんですよ」とか、赤ちゃん談義で盛り上がり、かわいかったご近所の赤ちゃんの様子を話すうちに、お互い目に涙が浮かんしまったりとか(苦笑)。
レッスン中は教える立場、教わる立場ではありますが、おたがいママ同士でもあり、共通する体験が多いせいか、すぐに伝わることが多くて、びっくりします。
「ピアノを弾いている時は、ほんとうに集中できて、ほかのことを全部忘れられるから、ものすごくストレス解消になるんです」とおっしゃるので「ほんとに、そうですよね〜!!」と、いつも盛り上がっています。