朝起きたら、私が「ピアノちゃんにおはようしようね」と声をかけ、息子は「ピアノちゃん、おはよう」と挨拶します。幼稚園に行く前に、5分か10分ほど、ピアノちゃんと遊びます(練習)。時間になると、「じゃあ、ピアノちゃんまたね。行ってきまーす」といって、ピアノちゃんにバイバイをします。
私と手をつないで幼稚園バスのバス停に行く途中、「ピアノちゃん、もっと遊びたかったっていってたよ。帰ったらまた遊んであげようね」というと「うん、帰ったらね」と息子はいいます。
幼稚園バスから家に帰るまで、手をつないで歩きながら、私は「ピアノちゃんが、早く帰ってきて!!!!! ってプンプン怒ってたよ。お母さんもピアノちゃん弾いてあげたんだけどね。なんでお母さんじゃだめなのかしらね」といいます。「しょうがないなあ、ピアノちゃんは」と息子。
そして帰るとまず「ピアノちゃん、ただいま。おやつ食べたら遊ぼうね」と、声をかけます。元気な日は、練習します。疲れている日はさぼってしまいますが・・・
たまたま今日、ピアノの隣に置く楽譜棚を、アートファニチャーギャラリーという素晴らしい職人さんのいる工房にお願いしていたものが、出来上がって、夜の8時ごろ届くという連絡が来ていました。7時半ごろから、ピアノのまわりを片付けて掃除していたら、息子が突然顔をゆがめ、目に涙をためて、私に近づいてきて、たずねました。
「ピアノちゃん、いなくなっちゃうの?」
息子は、ピアノをどこかに持っていってしまうのだと勘違いしたのでした。
「大丈夫だよ、ピアノちゃんはいなくならないよ。ピアノの隣に、素敵な本棚が来るんだよ。ピアノちゃんはずっと一緒だから、大丈夫」と私は一生懸命説明しました。
うわああああんと泣き出した息子。抱っこされながら、何度も私が説明したら、わかったようで、泣き止みました。
無事に楽譜棚の搬入も済んで、ピアノの楽譜もすっきりおさまり、めでたしめでたし。
息子に尋ねてみました。
「ピアノちゃんがいなくなったら、どうなの?」
「ちょっと寂しい」
「そっか」
「でも今日ピアノちゃんと練習しなかった…」
「うん、じゃあ、今日はもう夜遅いから、明日弾いてあげようね。そうだ、ピアノちゃんの絵を描いて見せてあげたらどうかな?」
「うん、描く」
いつもは電車の絵を描いている息子が、初めてピアノの絵を描いてくれました。黒のクレヨンで、PETROVの綴りも逆さ文字のアルファベットで入れてくれました。
「ピアノちゃんに見せに行こうか」
「うん」
お絵かき帳を抱えた息子は、ピアノのいすのそばに行き、「お母さん、ふたを開けて」といいました。ふたを開けて鍵盤が見えたら「ほら、ピアノちゃんの絵を描いたんだよ。見て」と息子はピアノちゃんに話しかけていました。
「ピアノちゃんもうれしいみたいよ」といって、私が短くドミソの和音を、ちゃん、と弾きました。「よかった」と納得した息子は、おえかき帳を閉じて、片付けていました。
また明日、ピアノちゃんと一緒に遊ぼうね。