音楽センスを伸ばしたい!

音楽ライター山本美芽による、ピアノレッスンに関する取材日記です。

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デビッド・ベノワ@丸の内コットンクラブ 6月28日

音楽ライターの工藤由美さんと日本で会えたらいいね〜といっていたところ、ピアニストのデビッド・ベノワのショーがあったので、一緒に観に行ってきました。

由美さんの自宅は新宿で、場所は丸の内。丸ビルの地下で待ち合わせしました。車いすでどうやって来るんだろう、とすごく心配していたのですが「だいじょうぶよ」とおっしゃっていて、本当に普通に約束の時間にはいらっしゃっていました。自分が車いすに乗って同じように行動できるだろうか? 何度もお会いしているけれど、まだちょっとドキドキしてしまいます。本当にすごい!!! 由美さんがチェックしておいてくれたタイ料理のお店で生春巻きやチャーハンなどをいただきました。アメリカのタイ料理だと、時々すごく辛かったりして食べられないことがあるんですが、日本だとちゃんとほどよくアレンジしてあるんですね。カロリーも控えめな感じで、おいしかった〜。

丸の内近辺は、この前、東京から宇都宮に行くために新幹線に乗ったときに車窓から見ましたが、実際に歩いてみると、いやはやオフィスビルが林立して、その1階におしゃれなブティックが軒を連ねています。歩いているだけでもなんだか浮き浮きしてくるような素敵な街になっていました。コットンクラブも、1階はJPモルガンが入っているオフィスビルの2階にありました。

コットンクラブは、ブルーノート東京の半分ぐらいの広さで、もっと親密に、ちょっとだけ高級にした感じのお店でした。いちばん後ろの席に座っても、ステージまでの距離がすごく近いのが嬉しい!! 

ベノワのCDはずっと聴いていましたし、アメリカに行ってからはスムースジャズのラジオで毎日のように曲がかかっていたので、ほんとうに私にとってはおなじみのアーティストなんですが、ライブはこれが初めてでした。うわっ、やせてて背が高い!! こんなスラリとしたアメリカ人、私の住んでいる街には一人もいないような気が。奥様が日本人だから食事がヘルシーだから!? とかどうでもいいことが頭をよぎります(爆)。この日の編成は、サックスがなんと、ジェフ・カシワ!!! 日系3世って言っていました。リッピントンズでおなじみの彼が入っていて、かなり豪華です。さらにベースとドラムスという4人編成でした。

ベノワはグランドピアノの譜面台のあたりに、キーボードを置いて、バンドでがんがん音を鳴らすときはそこでピアノの音、さらにはもっとシンセとしてもいろいろ使っていました。でも、ビル・エヴァンスのワルツ・フォー・デビーをわりと正統派なジャズで演奏してくれたり(↓このアルバムに入っています)

ヒーローズ
ヒーローズ
デヴィッド・ベノワ


バンド全体で音を出す前に、グランドピアノでえんえんと即興をしてくれたりと、グランドピアノを弾いていた時間も結構長かったかな。スムースジャズで、グランドピアノとキーボード併用っていうパターンは、松居慶子さんのステージでもよく見ましたが、ベノワのほうが、若干ジャズ寄りというか、キーボード使用度合いは低めでした。

さすがにピアノ、うまいです。指がバカテクに異様にまわるというタイプではない…もしかして若い頃は違ったのかもしれませんが、タッチがもう、ありえないぐらい美しかったです。ポロポロ〜ンとシンプルなメロディを弾いたとたん、カリフォルニアの青い空とからっとした空気が一瞬で目の前に広がるような気がして、なんという力なんだろうと圧倒されました。派手に鍵盤をあっちこっち行き来している個所では、「ミスタッチじゃん」などと余計なことを気にしてしまって、なんだか落ち着かなかったんですけれど、音数が少ないところで聴かせるような部分とか、バンド全体でガンガン盛り上がるような部分の都会的な輝きなんかは、もう、だれにも真似できない、これぞデビッド・ベノワでしょう、という感じ。

ベートーヴェンの月光ソナタ1楽章を混ぜながらの「Freedom at Midnight」この曲の演奏が、当日もハイライトでした。この曲は、月光が混じってない元のバージョンが出たときにアメリカで大ヒットして、一時期ラジオをつけると毎日、それこそ何度も聴いていて、まずメロディを覚えてから「あ、ベノワの曲だったんだ」と気がついたのでした。私にとってはカリフォルニアで車を運転している思い出と切り離せない曲です。ベノワの曲は、飾らないけれど洗練されていて、さわやかで美しくて、パンチもあって、西海岸の風景とぴったり合うなっていつも感心してしまいます。

コットンクラブのベノワのライブお知らせページで、月光入り「Freedom at Midnight」の演奏が聴けます。まさにこんな感じでした。
http://www.cottonclubjapan.co.jp/jp/sp/davidbenoit/

フュージョン系のピアニストって、多かれ少なかれクラシックを真剣に練習していた時期があった人がほとんどのように思います。ベノワはかなりタッチもクラシック寄りで、そこからジャズというよりはポップス寄りのタッチを身に付けた人なんじゃないのかな〜と感じました。手首や背中の動きが気になって観察していたんですが、何を弾いてもあんまり激しくノンレガートでいちいち音にアタックをかけていないように見えたんです。誰と比べているかといえば、それは例えば上原ひろみなんかと比べてなんですが。もちろん瞬発力はびしっとかかって素晴らしくいい音が出ているんですが、あまりノンレガートにしすぎないで、横に流れるクラシック的なレガートのほうが彼本来のタッチなんじゃないかと仮説をたてたんですが、どうなんでしょうね。いつか取材する機会があったら質問してみたいものです。


フュージョンのピアニストには、作曲家タイプとピアニストタイプとふた種類の方向性があるんですけど、ベノワはやっぱりピアニストである以前にやっぱり作曲家で、頭の中にはオーケストラが鳴っている系の人なんでしょうね。

アースグロウ
アースグロウ

ベノワは話をすると、見た目の貴公子っぽい上品な感じよりも、かなり気さくな、まさにアメリカ人っぽい印象でした。こういうちょっとしたギャップが、また魅力的だったりします。

そんなわけで、由美さんには再会でき、ベノワの演奏も堪能し、初のコットンクラブにも大満足。昔はわからなかった英語のMCも今回はわかったので、アメリカで4年間苦労したのは無駄じゃなかったのかな〜と思えたりして。

グラスワインがおいしかった〜。ワールドカップの日本対パラグアイ戦が始まる前の急ぎ足の勤め人の方々に混じって、丸の内の夜景を眺めながら地下鉄の階段を下りました。