音楽センスを伸ばしたい!

音楽ライター山本美芽による、ピアノレッスンに関する取材日記です。

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パット・メセニーの新作「オーケストリオン」が面白い!!

オーケストリオン
オーケストリオン
パット・メセニー

きっと日本のジャズ・フュージョンシーンでは、このアルバムの話題でもちきりなんでしょうね。私もアメリカでの発売日になんとかアマゾンに注文を入れて、ゲットしました。上原ひろみちゃんのソロアルバムも同じ日が発売日だったので一緒に注文しました。

マリンバとかドラムセットとかピアノ、いろんなパーカッション類、そして水の入ったびんをチューニングしたもの!? を自動で鳴らす仕組みをつくって、それといっしょにパットがギターを弾くというコンセプトなんですね。

ジャケットを見たとき、なんだかアンティークで可愛いお部屋だわ〜、でもなんだか、ピタゴラスイッチみたい・・・。ピタゴラスイッチというのは、NHKで放送している子供向けのからくり装置が淡々と動く様子を撮った番組なんですが。まさに、実際に楽器でピタゴラスイッチをやっているようなものだったとは。不気味という意見もネットでみかけましたが、ユーチューブで映像を見た感想としては、楽器たちが一生懸命に動く様子がなんだかけなげで可愛いと感じました。

そうした仕掛けはともかく、実際の音楽はどうなのよということで聴いてみると、これまた王道のメセニー・グループ・サウンド。細かく動くマリンバたちの刻みに、浮遊感たっぷりのメセニーのギターが飛翔していく、鮮やかな自然の造形が目の前で刻々と移り変わっていくかのような、そしてアコースティックな音が耳に優しく、でも陰影ゆたかなディテールに目を見張る−じゃなくて耳を澄まさずにはいられない、そんな、いつものメセニーの世界。いつもよりもちょっとノスタルジックな色合いが濃くて、小難しい要素が薄く、それもまた魅力的です。

でもまあ、せっかくオーケストリオンって装置が演奏しているってことだから、人間が演奏しているのと違うかなあ? という観点で耳を澄ますと、うーん、やっぱり、確かに違うかも。ピアノ。きれいだけど、おおっと驚くような美しいタッチとか、なんだこのカッコいいリズムの刻みは!? とか、惚れ惚れするように抜けのいい和音が鳴り響いたりというのは、あまりないかも。ドラム。特にそんなに文句はないんだけれど、ハイハットクローズのシンバルが、ちょっとどうなのかな? それから、ライドシンバルの上でスティックが踊っているような、ダイヤがこぼれおちるような美しい音の洪水・・・みたいなのも、ないかも。

それがトータルで聞くと、なかなかいいのは、なんでなんでしょう。すべての音にミュージシャンの神経を張り巡らせた、超ゴージャスなサウンドとは違って、オーケストリオンたちが演奏する確かに無機質ともいえるアコースティックサウンドには、オルゴールみたいな魅力があります。だからこそパットのギターが際立つ面もあるかもしれません。

音楽ライターの工藤由美さんのブログを読んでいたら、メセニー・グループのピアニスト、ライル・メイズに取材していて、オーケストリオンの話になったところ、ものすごく不機嫌になってしまったとか。大人気ない反応って気もしますが、でも、今回のアルバムではパットは自動演奏ピアノを使っていて、ライルには何も頼んでいないわけで、これまで一緒に音楽を作ってきた立場としては、面白くないのは当然というか、それだけメセニーグループで弾くことを大切に思っていたのかなとも推測できます。

そうやって人間関係に摩擦を起こさないという観点から言うと、このオーケストリオンプロジェクトは難しい面もあるのかもしれないけれど、でも、音楽をぜんぶひとりで操ってみたいという欲求はとても自然なものでしょう。

ピアノだってオーケストラでやっているものを全部ひとりで無理やりやろうとしているわけだし、ドラムセットにしても、シンセサイザーでブラスセクションやストリングスセクションの音を弾いてしまうのも、みんな「ひとりで全部やってみたい」という欲求なしには生まれなかったものだから。

そして、ピアノにしてもドラムにしても、最初は「みんなでやっていたことをひとりでやる」という、「オーケストラにはかなわない」「パーカッション軍団には負ける」という代用品的な位置づけだったに違いないのですが、そのうちだんだん、ピアノ独自の世界ができ、ドラムセットでなければできないスタイルの演奏が増えていく。19世紀のベートーヴェンからショパンやリストが活躍した頃って、まさにピアノがオーケストラの代用品からピアノそのものとして魅力を開花させていく時期だし、20世紀の真ん中ぐらいは、ドラムセットで即興演奏を縦横無尽に繰り広げるジャズのスタイルができて、両手両足をばらばらに、しかも正確に動かして演奏さなければならないという困難を補って余りあるドラムの素晴らしさが揺ぎないものになった時代です。

メセニーが作ったオーケストリオンが、果たしてピアノやドラムセットのような発明になるのかどうかはわからないけれど、いつものメンバーで録音されたいつものスタイルのアルバムがリリースされましたと聞くよりも、このからくり機械もどきの壮大なシステムを使っていると聞いたほうが、「えっ何?? どうなってるのそれは!?」って、好奇心をかきたてられますね。新鮮で、ワクワクさせられる実験。この壮大なプロジェクトには大きな意味があると思います。

でもって、チューニングされたびん入りの水がいったいどの音なのか、まだよくわからないんですよねえ。それから、ベースはメセニーが弾いているのかしら?? 細かい事実関係がいまいちよくわからないので、もう少しネットサーフィンして調べてみたいと思います。ご存知の方いらしたら是非教えてください。