音楽センスを伸ばしたい!

音楽ライター山本美芽による、ピアノレッスンに関する取材日記です。

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もしかして学級崩壊?

 8月末から、娘が通う日本語補習校の新学期も始まりました。夏休みの宿題を最終チェック、はーやれやれ、と思って初日に送り出してほっと一息。その日の授業を見に行ったお友達のお母さんから、授業が大変なことになっていると聞かされました。授業中、子どもたちが全員おしゃべりに興じていて、ほとんど先生の話を聞いていなくて授業が成立していない状態だとか。

 うちの娘も、ずーっとおしゃべりしていたそうです。はーーーーーー、ショックでした。
 
 正座しなさい、授業中におしゃべりして先生の話を聞かないなんて、お母さんは情けないっ!!!! せっかく先生が勉強を教えてくださっているのに、おしゃべりして聞いてなかったら、何のために学校に行っているのかわからない!! お母さんは情けない!! そんな子に育てたつもりはない!! 

 と、叱りながら涙が出てきました。娘は、おしゃべりがそんなに悪いことだったとは知らなかったといい、びっくりして泣いていました。今度はもうやらない、と約束しました。

 お友達のお母さんには、今日の授業がいかにひどい状態だったか、クラスの親全員にメールで事実を伝えてもらえないか、それもなるべく早く、とお願いしました。

 次の授業がある土曜日までの1週間、何通ものメールが飛び交い、とりあえず次週はなるべく多くの保護者が授業にヘルパーとして入り様子を見て、授業後にミーティングをすることになりました。

 いよいよやってきた2週目の土曜日。私も久しぶりに下の息子を連れて補習校に一緒に行くことになりました。朝礼では校長先生が、「授業中騒いでいたクラスがあるそうですが、やる気のない人は来なくて結構です」とおっしゃったとか。そう、補習校は、義務教育ではないので、退学になるケースもあるんです。

 一時間目は算数の授業。夫に息子を預けて、この時間は私も参観しました。生徒が10人あまりに先生ひとり、親がなんと5人入ってました。教室は静かです。先生が12とか15とか二桁の足し算、引き算の説明をしています。

 問題をみんなでひとつずつ解いていきますが、いまどこの問題をやっているのかわからず、ぼーっとしていたり違う場所を見ている子があまりに多い! 思わず「そこじゃないでしょ、ここだよ」といって教科書を指差してまわりました。「あ、ここね」とわかれば、みんな、すらすら問題は解いています。

 補習校では、週に4時間だけの授業で、国語と算数、生活の1週間分を詰めこまなければなりません。はい、何番の問題をやりますよー。いいですかー。などとのんびりやっている暇はないのです。確かにこれは1年生にはきついだろうなぁ。

 後ろを向いておしゃべりを始めそうになる子がいたので、その子にはドスのきいた小声で「前を向く!」と声をかけてちょっと怖い顔をしておきました。怖いおばちゃんだと思われたことでしょう。

 けっきょくその日は、非常に静かないい状態で4時間目まで授業が終わり、生徒たちはぐったり、親たちは一安心でした。
 
 保護者会のときに、先生に対して「授業にもっとメリハリをつければ子どもの集中力が続くのではないか」というかなり辛口の意見を先生に対して言う人もいました。まあ親の本音としてはそうですし、確かに授業にメリハリはあればあるほどいいでしょう。でも、もし私が先生だったら、メリハリのある授業をするには授業準備の時間がものすごくかかる、そういう空き時間とか放課後がない補習校でそこまで言われても…と思います。

 そもそも、メリハリがあって小学1年生の集中力を長くもたせる授業なんていうのは、ベテランの名人芸に近いものがあって、誰にでもすぐできるもんじゃないんです。声の出し方にはじまり、話すスピードの緩急、ひとつの文章と次の文章の間、声の大きさの変化、目線の配りかた、教室での立ち位置といった、役者とも共通するパフォーマーとしての技術がいります。

 さらには、指示の出し方、話を聞く時間、自分が作業する時間の切り替えといった、集団をコントロールする技術。そして、子どもの集中力、感情といった反応をみながら、アプローチを変えていく観察力と反射神経。

 こうした技術は、教室で子どもを相手にしながら試行錯誤し、達人の授業を何度も参観し、研究授業の指導案を何回も書き直し、研究授業をやってベテランの先生にいろいろな面を直してもらい、それでもうまくいかず、試行錯誤を重ねに重ねて身につけていくものです。

 もちろん、先生が生徒の集中力が続くようなスキルを磨いていただくのは重要です。しかし、先生が名人芸を発揮して子どもをどうにかしてくれることを期待して文句をいっているだけでは何も変わらない、親としてはダメなんだなと今回改めて思いました。

 まず、日ごろから、勉強するときは時間を区切って集中する癖をつける。大人に何か指示を出されたら、まず返事をして、顔を見て話を聞く癖をつける。姿勢をよくする癖をつける。

 うーん、厳しいなー。家が学校みたいになっちゃいそうで、ちょっと可愛そうな気もします。でも、家で宿題の紙を広げてぼーっとしてしまう癖とか、相手に話しかけられているのにぼーっとしているとか、そういう癖がついてしまっては、学校でもちゃんとできるわけがないですね。

 ちょっと話がそれましたが、結局来週からしばらく、保護者が2−3名ほどクラスに入ってヘルパーをして様子をみることになりました。

 なんだか気が重いなーというのが正直なところでしたが、きょう娘に今週の宿題をやらせてみたら、いつになく良い変化がありました。まず、集中させる訓練が必要だと私が気づいたので、タイマーをかけ、10分以内に終わらせるという目標でヨーイドンで始めたのです。すると、プリント1枚あたり3分ぐらいで終わりました。前はもっとダラダラやっていたような気がするのに。しかも、「これ習ったから、わかる」などといいながら問題を解いています。それって今週はちゃんと授業を聞いていたからわかるってこと? いやあ、実に結構。大騒ぎした甲斐がありました。

 まあとりあえず今回の事件はいい方向に向かいつつあり、はーやれやれ、といったところです。しかし今週1週間、ここに至るまで、私は何度、「太田先生はどうしていたっけ…」と振り返ったことでしょう。鉄は熱いうちに打てと先生はおっしゃっていたな、とか、先生は心が痛んでいますといって叱っていたなとか、はじめ、といって作業をはじめさせていたな、とか。

 今回のことがあって、学級崩壊という言葉で検索をかけてみたら、驚くほど多くのクラスがこの問題に苦しんでいるのですね。

 太田先生は、他の先生の時間には学級崩壊状態のクラスを、美術の時間だけは別人のように学習に打ち込ませるという超人的なことをやってらした方なので、やはり学ぶべき点はいくらでもあります。

 太田先生の授業を私が取材した「りんごは赤じゃない」、学級崩壊に悩む方々には参考になると思います。

 残念なことに、この本の新潮文庫は絶版になるので、ここ数日で倉庫からなくなります。

 なんだか宣伝になってしまいましたが、でも、いまも昔も、子どもが授業をちゃんと聞かない問題は、深刻で難しく、太田先生がどうやっていたか知ることは、多くの人にとって助けになるなーと改めて思いました。


りんごは赤じゃない―正しいプライドの育て方 (新潮文庫)
りんごは赤じゃない―正しいプライドの育て方 (新潮文庫)
山本 美芽