音楽センスを伸ばしたい!

音楽ライター山本美芽による、ピアノレッスンに関する取材日記です。

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ピアノの先生もライターも、第三者からの評価が大雑把な数字しかないのがつらいところ

この前のピアノの先生方を対象にしたセミナーで、これからのピアノ教師に必要な資質は何か?という質問を藤拓弘先生にいただき、もちろん「勉強熱心」「経営のこともちゃんとする」というようなことも大事だとは思いましたが、そんなことはおそらくとっくにご存知だろうと思い、「自分をほめてもらう仕組みを作る」というお話をしました。藤先生も「おおっ!?」と興味を示してくださったし、先生方の目がキラーン!! とした気もしたのですよ。あとでセミナーのレポートを書いてくださった先生方のブログを拝読すると、本当に短い話だったにもかかわらず、このひとことを書いてくださっている先生が、本当に多かった。特に、若い先生ではなく、おそらく50代前後と思われる、大ベテランの先生方からの反応が大きかったのです。

その日は、「自分を応援してくれる人を50人とか60人ぐらい友人として大事にする」というのを、「りんごは赤じゃない」に出てくる太田先生がやっていらっしゃったことを例に出したところ、藤先生も「自分のことを応援してくれる人が○人以上いたらビジネスとしてやっていけるといわれていますね」と返してくださり、そういう仲間作りが大事だよね、というようなまとめになりました。

そう、まずはお互いに応援しあえる友達をつくり、励ましあうこと。自分のやっていることの価値を本当に理解してくれる友達だと、いいですね。

たぶん、ベテランの先生方には、そんなふうに認め合い、励ましあえるお友達が不足していたのでしょう。めったにほめられない環境で、自分のやっていることの価値を理解してくれる人も少ない環境で、ずーっとひとりで頑張って頑張って頑張って、もう限界ってところまできて、それでも頑張って、でも、もう、これ以上頑張ろうかどうしようか、というところまで来ているのかなあ、と、胸が痛くなりました。

フリーランスのライターもそうなんですが、ピアノの先生って自営業ですので、上司はいないし、誰もほめてくれる人も、問題を指摘してくれる人もいない場合が普通なんですよね。

学校に勤めていれば、研究授業をやれば、指導してくれる先生がいたし、授業を見て講評していただくチャンスもあったのですが。ライターになると、「ここが悪い」と言ってもらえるチャンスって本当になくて、どこかが悪いと仕事が減るだけで、何が悪かったのか全然わからない・・・。一生懸命頑張っても、ほんとに反応みたいなものってなかなか来なくて、「なんだかなぁ・・・一生懸命やってみたけど・・・無駄だったかなぁ・・・がくっ」みたいなことも多く。

たぶんピアノの先生も、そういうことばっかりなんじゃないかな、と思うんですよね。

一生懸命セミナーに通って、新しい指導法とか勉強したり、ひとりひとりの生徒についてアプローチを変えたり、工夫に工夫を重ねても、保護者や生徒さんには「そういうものなんだ」としか思ってもらえない、お月謝払ってるし、当然、みたいな感じに思われちゃう、構造的なものがある。

ほめてもらえないことに対して落ち込んでいるというより、自分のやったことに対する評価がないから、結果が非常に漠然としている。もちろん、数字という意味での結果はありますね。ピアノの先生だったら、生徒の数とか、ライターだったら確定申告の金額とか(笑)、そういう数字がババーンと立派だったらまあ、それはそれでいいんです。でも、確定申告の金額が少ないから、生徒の数が少ないから、自分のやっていることのクオリティも低いのか? というと、そういうものの見方もさびしいですね。そんなふうに数字ではかれない結果、評価というのも、ぜったいに存在しているはず。

いま私、アメリカに行ったばかりで右往左往していた時期に書いていたメルマガの原稿を本にまとめようと思って読み直しているんです。あの頃の私って、とにかく英語がしゃべれなくて運転ができない情けない駐在妻で、とにかく社会人としても一人前以下の状態で、恥ずかしいやら情けないやら悲しい毎日でした。ですが、その頃に書いていたメルマガの原稿、今読み直すと、「これ本に使える」と思えるようなクオリティをちゃんと保っていました。しかも、渡米して2年目、妊娠してつわりで寝込むまで、ずっと毎週きっちり書いていたのでした。

あんなに自分のことを最低って思っていた時期に、ライターとしては一人前の仕事を、たったひとりで地道に続けていた自分。今になると、あんな状況で、いい仕事していたね、とほめてあげたくなります。おそらく、人にほめてもらわなくても、自分で、自分のことをそうやってほめてあげられれば、いいのだと思います。

もしかして私の場合、いろんな本を読みまくって、ほかの人の書いた本を比べて、「どういうところがよくて、どういうところが足りない」と、自分で客観的に判断できれば、そんなに人にほめてもらわなくても、書き続けられるんじゃないかという気がします。

おそらくピアノの先生方も、自分の価値を理解して応援してくれる(お互いに励ましあえる)友達をつくることとあわせて、いろんな公開レッスンみたいなものに行って、レッスンを見る目を肥やせばいいんじゃないでしょうか。公開レッスンだけじゃなくて、子どもの学校の授業参観みたいなものも、見まくる。最近は学校公開とかいって、授業を勝手に見られるようなチャンスも増えていますよね。いろんな人の授業を見ながら「この先生の声は眠くなるなあ」「この先生の話は面白い」「この人の板書、見づらいのはいったいなぜ?」「この先生、ピアノが苦手そうなのに生徒はけっこう音楽的なんだけど・・・どうして!?」とか、批評しまくるとか。テレビの放送大学とか、語学講座とか、NHKの「ようこそ先輩」みたいなものとか、NHKの「おかあさんといっしょ」のような子ども番組の「○○お姉さんのしゃべり方がなんかいい感じ」「○○お兄さんの声はなぜか印象に残らないなあ」などなど、いちいち分析していくだけでもいいかもしれない。

そうすれば、「○○先生のレッスン、すごくよかったけど、私のレッスンもまあ似たようなことをやっていたかも! それをこのお月謝で提供しちゃってるなんて、良心的すぎ!!」とか、「○○先生のレッスンだと、子どもが信じられないぐらいリズムがいいんだけどいったい・・・。使ってる本が合ってない!? ちょっといまの指導で、お月謝もらってるのってぼったくり!? やばい!! どうしよう!!」「もしかして年少さんに話しかけるときって、もっとかなりテンションをあげていったほうがいいのかも??」とか、自分について客観的に見られるようになると思うんですよね。

そんなわけで、孤独に頑張らねばならない音楽系自営業のピアノの先生も、音楽ライターも、励ましあう仲間を増やすのと、自分自身を客観的に見る力を磨く、この2本立てでいくのがおすすめです。ベテランの先生方も、指導力はものすごくあっても、ほかの指導者がどんな感じなのか見る機会を相当意識して作らないと、自分が客観的にどうなのか判断に迷うということは、起こりうるのではないでしょうか。

そうしたハイレベルな話とはまた一段日常レベルになりますが、自分へのケアとして、美容院に行ってさっぱりするとか、接骨院とかジム通いとか散歩とかで体をほぐすとか、お昼を外に食べに行ってほっとするとか、CDとか洋服とか本とかを買ってストレス解消するとか、お友達とランチをしておしゃべりするとか、このへんは、普段は誰からもほめてもらえない状態で頑張るための、基本であり、必要経費ですので、ケチると気力が衰えます。忙しくても確保するのが理想です。私なんて、原稿もろくに進んでいないのに接骨院には毎日通ってたりとか、どうなのよ、と思うときもありますが。

自分を応援してくれる人を増やすには、やっぱりピアノの先生同士でブログを作るなり研究会をつくるなりしてお友達を増やすのが一番よさそうですね。しかし音楽ライターの場合、ほんとうに人数が少ないので、そんなふうに励ましあえる人も本当に数えるくらいしかいないんです。

20代のころに一緒にわいわいライター仲間でやっていた友人たちは、残念ながら、いまあまりライターを続けていない。大学で教えている人もいて、それはそれで出世ともいえるし、いいことだと思うけれど、書くほうのセンスも素晴らしかったのに、もったいない気もします。そんなわけでライター業界にくらべると、ピアノの先生業界は同業者のお友達がずっと見つけやすく、うらやましいです。でも私はライターだからといって、同業者とばかり励ましあわなくても、地道に頑張る音楽の自営業者どうし、ピアノの先生方とも励ましあっていけたらいいな、と今回のセミナーを終えて思いました。