このアルバム、やっと日本から届いたので聴きまくっています。
ピアノトリオで、ありとあらゆるジャンルを縦横無尽に飛翔し、しかもプレイヤー人数が少ないぶんスリリングで、当然ながらリズムもメロディもアレンジも申し分ない、非常に面白いアルバムです。
曲が変わるごとに、クラシックからジャズへ、ラテンからスパニッシュへ、ファンクへ、…とチャンネルが変わるごとく曲調が変わります。そこでまた塩谷さんのタッチの使い分けは、まるで魔術師のようで、ほんとうに魅せられます。
辛口シャープな高速ジャズピアノに、しっとりリリカルなジャズピアノ、真珠のようにやわらかなクラシックに、ラフマニノフを髣髴させるコンチェルト系タッチ、さらには痛快なラテン・モントゥーノ、レイドバックしたエレピのごときファンクパターン、いったいこの人はいくつのジャンルを完璧に弾きこなしてしまうのだろう???
しかも単なる「何でも屋」になっていないし、ありがちなパターンをもってきた感じがいっさいない。どの曲も、新しく生まれ出てきたような新鮮さに満ちています。たぶん、ピアノトリオという概念がなくて、大規模なバンドやオーケストラでの音が塩谷さんの頭のなかにあって、それをピアノトリオに適用しているからなのでしょう。
不思議なくらい、何度聴いても面白いアルバムです。
塩谷さんは若いころからすでに天才として名を馳せていましたが、これだけのジャンルに精通し、タッチを獲得するためには、彼ほどの才能をもってしても40代に突入するだけの時間が必要だったのかもしれません。
才能という土台に、経験と努力を積み重ねて、こんなにすばらしく型破りな音楽ができあがったというわけなのでしょう。
ジャズファン、フュージョンファンの方々はすでにチェック済みでしょうが、普段ジャズはあまりお聞きにならないピアノの先生方にも、このアルバムは超おすすめです。ピアノの持つジャンルレスな魅力と、ジャンルごとのタッチの違い、しかもそれらの引き出しは手段でしかなく、その先に「表現したい音楽」のために存在しているところがすばらしい!!