音楽センスを伸ばしたい!

音楽ライター山本美芽による、ピアノレッスンに関する取材日記です。

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渡辺貞夫がサンフランシスコのYoshi'sにやってきた!  その2

貞夫さんのライブのご報告を続けます。

貞夫さんがアルトでメロディを朗々と吹くと、おおーっという声にならない無言の驚きというか引力みたいなものが私の中にむくむくと湧いてきました。たぶんそれはほかのお客さんのなかにも起こっていて、その場にいるみんながひとつのメロディを一緒に心で歌っているような…。輝かしく、それでいて素朴な味わいの音色が、心をぐっとつかんできます。

ふうーむと聴き入っていると、けっこうあっさりメロディが終わってしまって、間奏になるとギターの梶原さんやピアノの小野塚さんにソロがどんどんまわっていきます。おふたりのプレイを楽しみにしていた私には実にうれしい展開。

小野塚さん…ところどころで、シンセでふわ〜ぴよ〜系の音を実に的確にもってきて、雰囲気をがらっと変えてきます。そりゃあディメンションの頭脳、シンセの達人ですからね。しかもソロをとったときのピアノがまた、音は転がるように艶やかに響いて、速く弾けばエキサイティング、ゆっくり弾けば1音1音が心にしみいるといったところで、うーむやっぱり小野塚さん。シンセもピアノもこれだけ弾ける・・・いいフレーズを組み立てて、とにかく楽しませてくれます。

シンセの使用はかなり限定的で、決してスムースジャズにはなってないですね。全体的にはストレートなジャズに若干のアフリカやラテンなどワールドミュージックフレイバーを足した路線でまとめていました。だからパーカッションのニャンさんが必要になり、あらゆるジャンルに精通しつつジャズも達人のメンバーたちを揃えているわけです。

前半で聞けた、テンポが速めの4ビートストレートなジャズが小粋でカッコよかったー。貞夫さんのアルトの軽快さにびっくり、ドラムの石川さんのしなやかな手首がシンバルの上を飛び跳ねている様子、スカーッとしました。後半に「アフリカに行ったときに少女が鼻歌でうたっていたメロディからつくった」というアフリカ風の、バックのメンバー3人ぐらいでしたか、いきなり地声で歌い始めたのも突き抜けるような新鮮さがありました。まるで、風がどこからか吹いてきたような。

貞夫さんの英語MCが聞けたのもよかったです。充分ジョークも受けていたし、やっぱりさすが。私なんか発音悪くて通じないんじゃないか? とビクビクしながら英語を話してますけど、貞夫さんみたいにどっしり構えて話したほうがたほうが通じるのかな、と考えたりして。

私が観たのはお昼のマチネーで、1時間半に満たないコンパクトなステージでした。それだけの時間のなかで、へえーと驚き、すごいと感心し、ふーむと聴き入り、ふと遠くへトリップしたかのような錯覚に、高速道路を快調にぶっとばすような爽快感、いろんなどきどきわくわくが味わえました。

もちろん、飛行機に乗って海外旅行にでも行けば、そういったわくわくした気持ちは味わえるけれど、ライブって、それに比べたらずっと移動距離も時間もお金も少ないわりに、わくわくできて、コストパフォーマンスがいいものだな、とふと思ったりして。

人間には本能的に同じ環境では飽きてしまう面があって、退屈しやすくて、でも生存のためには安定も大事。そこで音楽で脳内トリップすることで、うまくバランスをとっているのかもしれないなーとか考えました。たった1時間半のライブが終わっただけで、長期旅行から帰ってきたみたいにリフレッシュしているのが不思議。おそらく音楽ファンだから私はそう思えるのでしょう。音楽のある人生に感謝。