音楽センスを伸ばしたい!

音楽ライター山本美芽による、ピアノレッスンに関する取材日記です。

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音楽誌アドリブの休刊に思うこと

景気が悪いのはよくわかっていたし、音楽雑誌なんて打撃をもろに受けるに決まっている、でも、音楽雑誌の経営が厳しいのは今にはじまったことじゃないし、不況を幾度も潜り抜けている雑誌ばかり。だから、あまり心配していなかったんです。日本に帰ってから、また、ジャズライフでも、アドリブでも、ムジカノーヴァでも、ショパンでも、再び原稿書かせてもらえる日がきっと来るだろう、そのためにとにかく英語を今は頑張ろう、と思っていたのですが。

5月号でアドリブが休刊になるのですね。これまでだって景気が悪かったことは幾度もあったでしょうに、何が決定的だったのかと。アドリブは、レコード会社の広告がとても多くて、レコード会社の売り上げ減が直撃ということだったようです。私が他に書いていた音楽誌、ジャズライフとか、ムジカノーヴァ、ショパン、そのあたりは、楽器とか音楽学校の広告が結構多いんですよね。楽器のほうは、CDほど落ち込んでないんでしょうか?

ライターとして、私にとってのアドリブは、「地の文」をたくさん書かせてもらえる場でした。地の文、つまり、アーティストがしゃべった言葉をそのまま「」に入れて原稿を埋めていくスタイルではなくて、ライターの持論を書いていくわけです。

アドリブって雑誌のカラーとして、とてもライターの個性を大事にしていて、編集部の方も、「美芽さんなりの見方とかこだわりを入れて原稿を書いてください」というような趣旨のことをよく言ってくださいました。ライターは影武者じゃないですが、目立たないほうがいいような場合もあるし、そういう仕事もたくさんやっています。だからこそ、書き手の姿が見えるような文章をあえて依頼されるというのは、とても身が引き締まりました。

そこで、他のライターさんはどんなふうに書いているのかな〜と研究モードで一生懸命、アドリブを読みました。工藤由美さんの文章はいつもインターナショナルな刺激を与えてくれつつ小難しさが一切なく、あっという間に頭に入る。熊谷美広さんは、とにかく圧倒的な知識が素晴らしく、いろんな経緯や事実関係がよくわかり、ノートをとりたくなるぐらいで、でも知識だけにとどまらず、どういう感動があったのかについてかならず踏み込んでいる。それから松下編集長がジャコについて書いている文章が、とにかく愛にあふれていて、こんな権威ある雑誌の偉い人が、ここまでジャコが好きなんだ好きなんだ好きなんだっ!!! という気持ちをストレートに表現しているのが、なんか心を打たれてしまい、この人がここまで人生を賭けて愛してきた音楽なのだからと、真面目にジャコのCDを集めるきっかけとなりました。

そんなそうそうたる執筆陣のなかで、うーん私は知識はまだまだだし、英語もまだまだだし、やっぱりノンフィクションライターだし音楽教育について勉強してきたから、音楽づくりのプロセスとか人間としてのミュージシャンを描くとか、CDの中に凝縮されたミュージシャンたちの感性やこだわりとか、そういうものを描いていきたいな・・・と、漠然と考えるようになったものでした。

そんな特別な存在であったアドリブに書かせていただけて、本当に幸せでした。

台湾とか、ライブ取材もたくさん行かせてもらったなー。
取材のための私の台湾までの飛行機代が出してもらえることにあのときは驚きましたが、バブルの頃なんて、もっと景気のいい話がいくらでもあったんでしょうね。

これまで、CDが売れることで、雑誌が成り立ってきた。

でも、CDが売れなくなることで、雑誌が成り立たなくなってきた。

音楽にお金を使うということは、いろんなものを成り立たせるために、とても大事なことなんですね。

音楽にかかわる立場には、プロのミュージシャンや、マスコミや関係者、そしてリスナーといろいろあるわけですが、もしかして、音楽とは関係ない仕事をしてしっかり稼いで、音楽業界にお金を落としてくれるリスナーというのが、ものすごく大事で、リスナーの部分が弱っていることが、どれだけ業界全体に打撃を与えているか、今回のことで鮮明になったように思います。

残った音楽雑誌にレコード会社、そしてミュージシャンたちを、なんとか音楽を愛する人たちみんなで少しずつ支えて、この厳しい時期を乗り切りたいものです。

休刊・・・また、ジャズライフみたいに、復刊してくれないかな? と、心のどこかであきらめきれない自分がいます。