音楽センスを伸ばしたい!

音楽ライター山本美芽による、ピアノレッスンに関する取材日記です。

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音楽ライターになろう、というのは・・・

ある出版社から、若い人たちに音楽ライターになろうとすすめる本を書いてほしいといわれ、私は思わずしりごみしました。今、音楽ライターをやっていて幸せだけれど、「なろうよ」と安易にすすめるのは、たいへん無責任のような気がしてしまうのです。それは自分が出産してよかったからといって、「出産しようよ」なんて人にすすめるのは無責任であるという気持ちと同じです。安易な気持ちで取り組むと、人生を棒に振る可能性もあるのですから。

業界でも専業音楽ライターだけではなく、ほかの仕事との兼業というのはそれほど珍しいことではありません。私も純粋な音楽ライターの原稿書きだけで生計をたてるのはむずかしく、ノンフィクション方面の本を出しているわけです。それでもなんとか音楽ライターと名乗れる程度に仕事をいただいているのは、さまざまな出会いに恵まれたからだと思います。

フュージョンという狭い音楽ジャンルのなかでも、海外のフュージョンと日本のフュージョンがあって、日本のフュージョンだけでも主要なアーティストのコンサートに全部いって過去にリリースされたCDを全部そろえて聴くなんていったら大変なことです。私自身、いまゼロの状態からやっていくなんて考えたら気が遠くなってしまいます。

もし、音楽ライターを目指している人がいたら、食べていけるようになるにはある程度の時間がかかるので、その間の生活費と資料代をどこからか捻出しておく必要があります。そこまでして挑戦しても、はたしてライターとしてコンスタントに仕事が入ってくるか保障はどこにもないわけで、続けていくには、それなりの覚悟がいります。覚悟がいるのなんて、何の仕事でも一緒ですが、普通に勤め人をするのとはちょっと別種の覚悟ではあります。

確かに音楽ライター生活は幸せです。好きな音楽を聴いていられる時間が長いし、憧れのミュージシャンに会って、直接インタビューができるだけで、生きててよかったと思います。お役にたてたときが、いちばん幸せです。

でも、だからといって人に「音楽ライターになろうよ」とはとても言えない。というより、私自身に、そこまで言い切れるだけの自信がないのです。

周囲からも反対されても、貯金を食いつぶしながらでも、誰にも助けてもらえなくても、何の保証もなくても、音楽が好きな気持ちを忘れずにいい原稿を書く。そんなことを「やろうよ」とは、言いづらいです。

そんなことをお答えしたら、本の話はなくなったのでした。もちろん音楽ライターという仕事の実情について知りたいというニーズもあるのはわかります。ちょっともったいない気もする。でも、「なろう」という呼びかけは私にはできない。自分はこうだったとか、業界はこうなっているというふうに情報を提供して、あとは自分で判断してもらうべきものだと思う。やっぱり、私には書けそうにないな。死ぬまでに、その手の本を書いてもいいかなと思えるぐらい、自分で納得できる活動ができたらいいなあ。