音楽センスを伸ばしたい!

音楽ライター山本美芽による、ピアノレッスンに関する取材日記です。

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恩師の介護を続けた女性ピアニスト

 某社のピアノ教本ガイドブックの取材へ。
今日お会いしたのはピアニストの藤原由紀乃さんのお母様でした。ツィーグラーという教本についてのお話です。.
 取材が終わってから、お母様が去年の毎日新聞の記事の切り抜きを持っていらっしゃいました。ヴァイオリニスト五島みどりのお母さんを描いたノンフィクション「母と神童」の著者でもある新聞記者、奥田さんの執筆したものです。
 それを読んでびっくり。藤原由紀乃さんは、ここ10年あまり、ドイツで師匠を介護していたというのです。 

 由紀乃さんは4歳のときにミュンヘンでドイツ人の先生のところへ弟子入りして、いちど日本に帰国したのですが、9歳のときもう一度ドイツにわたって先生の家で内弟子になります。内弟子・・・住み込みで家族同様に過ごしながらピアノを教わるということです。そしてどんどん才能を開花させ、16歳(!)から国際コンクールに賞をとりはじめ、20歳で、なんと世界でも最も権威あるコンクールのひとつ、ロン=ティボーで1位をとっちゃうんですね。20歳で! は〜恐れ入っちゃう・・・。いかに凄い才能だったか、ということですが。

 ところが、21歳のときに4歳からずっと自分を教えてくれた先生(女性)が、アルツハイマー病になってしまったのです。ちょうどピアニストとしてこれから国際的に活躍をはじめようという時に・・・。先生はピアノ教育に一生を捧げていて、家族も身よりもなし。由紀乃さんは、先生の介護をすることを決意、その後13年間にわたって、介護生活を続けたのだそうです。

 昨年秋になって、「もうあなたはこれだけやったんだからいいじゃない、あとは地域で先生の面倒をみるから、ピアニストの活動に戻りなさい」と裁判官が言ってくれて、それで由紀乃さんはピアニストとしての活動を再開したのだそうです。 これはもう、簡単に「偉いですねえ」などど軽々しく言えないぐらい重い、すごい話で。どうしてそこまでできたのかな・・・と考えると、自分をピアニストとして育ててくれた先生へ、そこまで愛情を持てたってことは、先生にも愛情を注いでもらったんだろうな・・・。
 7月に藤原さんのリサイタルがあるのですが、是非彼女の演奏を聴いてみたいな、と思ったのでした。