音楽センスを伸ばしたい!

音楽ライター山本美芽による、ピアノレッスンに関する取材日記です。

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シュトゥットガルト音楽院の謎に迫る日本語の本!!

指を高くあげて鍵盤に打ち込む、いわゆるハイ・フィンガーについては、中村紘子さんが著書の中でずいぶん前に批判され、それは変だよねという認識が日本のピアノ界には広まっていきました。しかし、チェルニーの本を書くために90年代に私があちこちピアノ学習者に取材してチェルニーをどうやって練習したかと話を聞いたとき、それこそ東京の著名な音大の著名な先生が、それってハイ・フィンガーでしょ、と思われる練習をやるように強く主張していた、そんな話を山ほど聞きました。その結果手を傷めたといっていた人も少なくありませんでした。

 おそらく、いま60ー70歳ぐらいの教育者の方々が指導を受けた時期は40−50年ぐらい前なわけで、そのとき師匠に教わったとおりに教えていれば、ハイフィンガーが必要であると良心と信念にもとづいた指導を行っている可能性も充分あるわけです。

 ハイフィンガーで自分が弾くのはいいとして、それを現在の弟子に強制するのはいかがなものかと思います。チェルニー教則本は必修ではないという話については私なりに答えを本にまとめられましたが、そこでくっついてきたのが指の形の問題で、そこでハイフィンガーはそもそもどこから来たのか、という疑問がずっとありました。

 でも日本語で読める本がなかったんですね、これまで。ゲーリックという人の「著名なピアニストと彼らのテクニック」(Famous Pianists and Their Technique)という本にはけっこう詳しく書いてあるようで、手に入れて解読している途中で、あまりの分量にげっそりしてお休みしていたらあっというまに3年たってしまいました。でも、そのあいだに、シュトゥットガルト音楽院でどういうハイフィンガーをやっていたのか、くわしい様子が日本語で読める本が出ていたんですね!

ピアニストになりたい! 19世紀 もうひとつの音楽史
ピアニストになりたい! 19世紀 もうひとつの音楽史
岡田 暁生

 ただ、シュトゥットガルト音楽院で、なぜそういう練習をさせることになったのか? というところまでははっきり書かれていません。もちろん、19世紀には、そういう指の筋トレを尊ぶ風潮がこっけいなくらい顕著だった、その様子はいろいろな資料をもとにくわしく描写されています。でも、シュトゥットガルト音楽院は、偉大な音楽家を生み出したモスクワ音楽院やパリ音楽院とは違い、誰もすばらしい音楽家が出ていない。それに、シュトゥットガルト音楽院でやっていたことは、当時のドイツで非常に受けたようですが、リストやショパンの弾き方とはあまりにも違います。

 ハイフィンガーが良くないことぐらい、もう周知の事実ですし、じゃあどういう手の形でありどういう弾き方がいいのか、そっちが知りたいところです。ただ、歴史的にそういう起源があった、というのが日本語で読めるようになって、本当にありがたい!!! 著者の岡田先生はドイツ語の文献をお読みになり、そこから多数引用していらっしゃるので、それが私などにはとても調べられない部分であり、貴重に思います。

 手の形についての歴史的なおさらいについては、この本でかなりカバーできちゃいますね。私がいまさら手の形について調べる必要なんてないかなーという気もしますが、しかし、じゃあ今はどうなの、これからどうすれば? という点に、岡田先生のこの本は当然踏み込んでいません。音楽史の本ですから当然ですね。
 
 私の取材計画としては、アメリカにいる間は、まず歴史を徹底的に頭にいれ、もちろんこっちのピアノレッスンでどういう手の形をしているかも調べ、そして日本に帰ってからピアニストとか先生方に取材っていう流れになるのかな。まあ、チェルニーも8年がかりでまとめましたし、気長にいきたいと思います。