音楽センスを伸ばしたい!

音楽ライター山本美芽による、ピアノレッスンに関する取材日記です。

セミナースケジュールはこちらです。 山本美芽オフィシャルサイト

ピアノを弾くときの手の形に決まりはない!!

最近、リアルの知人とネット上の両方で、ピアノを習っているお子さんが、手の形について先生から厳しく注意されているという話を聞きました。

聞き捨てなりません。

私自身、大学に入ってからついたピアノの先生に、4年間「あなたは手の形が悪いんですよ。いい音はいい形から」とありがたい指導を受け続けて、心底うんざりしてしまったひとりだから。

先生は私のために、熱心に基礎を教えるつもりでやってくださったのであって、感謝すべきところなのでしょうが、はっきりいってその教え方には、今でも共感できません。

そもそも「いい音はいい手の形から」という理屈に私は納得できません。

本来ならば、音を聴いて、いまいち音がよくないな〜、どうしたらいいんだろう? と考えた末に、手の形を見直すというものじゃないでしょうか。

手の形を「見て」、ああだこうだいうのは、変だと思うんです。

何を弾いても音の響きがいまいち良くない、その理由として、手の形を考えるべきなのに。

聴くことをお留守にして、視覚にまどわされてしまうんですね。

手の形については、「手を丸く」とよくいわれると思いますが、大きく分けて2つの視点があります。

(1)指を伸ばすのか曲げるのか

 たいへんおおざっぱな記述ではありますが、ショパン以前は指をまげて弾き、ショパン以後は指を伸ばして弾く奏法が普通になりました。
 日本にピアノが輸入された時点では、ショパン以前の古い奏法が主流でした。そのため日本では、「自分の先生に教わったとおりを教える」という先生に習った場合、いまだにショパン以前の弾き方のやり方をしている可能性があります。
 そういう先生に「手の形が悪い」と怒られて疑問を感じている場合は、先生を変えることを検討したほうがいいと私は思います。

 伸ばした指、曲げた指についての専門的な話が知りたい方、「シャンドールピアノ教本」、または「ピアノを弾く身体」あたりを読んでください。

(2)指の付け根の支え

 ためしに、割り箸でお茶碗を叩いてみてください。
 次に、折れた割り箸で、お茶碗を叩いてみてください。
 折れた割り箸では、良い音が鳴らないはずです。

 でも、普通に何の訓練もしないでピアノを弾くと、指の付け根が折れた割り箸と同じようになって、良い音が出ません。

 そのためには、ピアノを弾く瞬間に指で瞬発力を出して、手の付け根の関節を固定しなければなりません。これは子どもの手にはかなり難しいので、相当な訓練が必要です。

 これに関しては、漠然といい形で弾こうとするよりも、名ピアノ教師として名高い金子勝子先生が提案されている方法がおすすめです。

 ドレミファソファミレドと弾くときに、1回目はドだけ、2回目はレだけ、3回目はミだけ・・・というように、ひとつの音について焦点を当てて、瞬発力を出す練習です。

指の支えをつくるメトード「基礎」&レパートリー16
指の支えをつくるメトード「基礎」&レパートリー16

 手の支えをつくるというのは、筋肉をつけるということです。3年5年10年単位で育てるものですから、あるとき突然ハノンばかり1ヶ月弾いたからよくなるという単純なものではありません。

 まだ片足けんけんができない3歳の子に「どうしてできないの」と怒って、できるようになるでしょうか。歩いたり、走ったり、両足ジャンプをしたり、毎日少しずつ足の力を強くしていくうちに、できるようになるでしょう。

 手の支えを作るのは、それと同じです。「やりなさい」といわれてすぐにできないのは当然です。

(3)指先の関節がへこむ(いわゆる「まむし指」)

 指の付け根だけでなく、指先の関節がへこんでしまう問題もあります。この場合も折れた割り箸と一緒で、響きが悪くなります。

 金子勝子先生は、へこんでしまう部分にテーピングをして弾く方法を提案して成果をあげていらっしゃいます。詳しくは金子先生のホームページをご覧になってください。Q&Aのところに記述が出てきます。

http://www.katuko.com/question/index/52

 奏法の歴史や手の構造、ハイフィンガーをめぐるさまざまな議論について調べると、「こうすべき」という理想が人によっててんでんばらばらで、確立されていないことがわかります。安易に「この形でなければダメ」と言ってしまう態度は、そうした知識がない裏返しではないか、とさえ感じます。もちろん、自ら理想的な奏法を身につけているプロのピアニストなら話は別ですが。

 そもそもジャズピアノ界では手の形がどうこう言う人はほとんどいません。音楽がよければそんなことはどうでもいいのです。

 また、最近は本物のピアノでなく電子ピアノやキーボードで習っているお子さんが多いそうですが、瞬発力だの支えだのというのは、本物のピアノでいい音を出すための方法ですから、電子ピアノで練習するのなら関係ありません。
  
 逆にいえば、電子ピアノで練習している限り、どんな手の形で弾いても音は変わりませんから、形だけああしろこうしろと言っても、意味がないのです。

 結局は先生選びということになります。ピアノの先生は、神様ではないのです。