音楽センスを伸ばしたい!

音楽ライター山本美芽による、ピアノレッスンに関する取材日記です。

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「下流の宴」と、努力以前に自分または子どもの位置を冷静にみるクールさの必要性

ドラマが終わってからしばらくたってしまいましたが、林真理子さん原作の「下流の宴」は、原作も買って読みましたし、ドラマも面白く見ていました。

ところが先日うちの母と話していたら、
下流の宴って見てた? あれ、何がいいたいのか、だから何なのか、よくわからなかったのよねえ」
とすっきりしない顔でいうのです。

 かたや私は、「そうだよねえ、こんなもんかもね」と妙に納得しながら見ていたので、母に説明しました。世の中、私立中学受験ブームに、英語子育てブーム。子どもに習い事をさせて塾に読み聞かせをして留学もさせて、手をかけてあげないと、就職難だし、将来真っ暗よーみたいな風潮があるのよと。

「いまはねえ、プレジデントって雑誌があるでしょ? あの会社が、プレジデントファミリーって、中学受験に備えた月刊誌なんか出しちゃって、夏休み中の頭のいい子の過ごし方、みたいな特集組んでるのよ。学力的にも経済的にもすごく無理してでも、私立中学に行かなくちゃあとで大変なことになるんじゃないか、って、小学生の親は、心配してるわけ」

「でもね、下流の宴に出てくる翔ちゃんは、私立にせっかく頑張って行ったけど、やる気がなくなって高校中退して、その後も特にやりたいことを見つけられないでいる。それに、可奈ちゃんはせっかくエリートと結婚して玉の輿になったけど、だんなさんがうつになって働けなくなって、自分で稼げるわけでもない」

「確かに今の世の中女性にとっては、自分で働くよりも、稼ぎのいい男の人を見つけて結婚したほうが、何十倍も効率はいい。だけど、それは、男の人頼みだから、万が一ダンナさんうまくいかなくなったら、自分も同じ運命をたどるしかない」

「だからね、教育産業、受験産業、出版社が、いい環境をいい教育を、っていってるのを真に受けすぎて、子どもの実態に合ってない方向にお尻をたたいてもうまくいかない可能性は十分にある」

「そして、女性が自分で稼ぐのは、金額にしたら少ないことが多くて、割に合わない気がするかもしれないけれど、やっぱり長い人生、何があるかわからないし、人に依存しないで自分で稼げる力だけはあったほうがいいんじゃないかと。おしゃれも婚活もいいことだけど、それだけでは不十分だって」 
そんな説明をしたら、


「まあ、今ってそうなのね。なるほどね」

と納得してくれました。


原作にあったのが、翔ちゃんの母、専業主婦の由美子が、子どもたちには毎年劇団四季のミュージカルを見せて情操教育をしていたから、うちは品のいい家庭なんだ、とすごく誇りに思っている描写が出てきたこと。

なるほどね。私も、心の中に、どこか、私は子どもをちゃんとオーケストラのコンサートに連れて行っていい環境を与えたわ、的なものが、ないとはいえませんね。

でも、あちこち連れて行っても子どもが楽しめなければ意味がないし、連れて行ったことがきっかけで何かに興味を持ってくれたらうれしいけど、結局どうでもよかった、という結果になることも、大いに考えられるので、私としては、そのへんシビアに考えてますね。

良い環境を与えるのは大事だけど、それが親の期待の押し付けになっては意味がない。

だから、ミュージカルだのオーケストラだのに連れて行けばいい子になるんだ、というのはあまりに甘いし、子どもへの観察が足りないわけで。

そうなると、子どもの実態や興味関心をよく観察しないで、勝手に親がいいと思い込んだものをあれこれやらせても、親にしては努力のつもりかもしれないけれど、効果は期待できない。翔の母、由美子はそこに気がつかないで、自分の努力が「足りない」と思い込んで、どんどん事態を悪くしていった。

林真理子さん自身は、お子さんを私立小学校に通わせていると週刊誌だか何かで読みました。そういう立場の人がこういう話を書いていること自体、感じ悪いといえば感じ悪いかもしれないけれど、でも、林さん自身、自分が売れっ子作家であるから子どもを私立に入れているのであって、自分の境遇が変われば話は当然変わる、というような客観性を持っている気がします。

私の書いた「りんごは赤じゃない」は、私立中学受験の問題にもなっていて、そこに目をつけてくれるなんて私立中学の教育は確かにいいだろうなあと思いますし、そこを目指すのは素晴らしいと思います。塾に通って勉強するのもすごくいいことだし、英語子育ても素晴らしいし、親子留学もかけがえのない体験でしょう。

でもあくまで人それぞれに一番合った道があるはずで、世間の風潮やら、いろんな教育界のビジネス的な思惑にのせられないように、子どもの実態をよく見て、日々の過ごし方を決めていきたいものだな、踊らされるのも時には悪くないけれど、最終的には地に足のついた道をいきたいものです。

日本もマイルドですが資本主義ですから、誰かのカモにされないように注意しないと。ちょっとカモになるだけならまだしも、変な方向に着地したら最悪ですから。世の中、誰かのビジネスの宣伝になっているものが本当に多いですから、自分や子どもにとって真に必要なものをクールに見極めて、冷静に投資したいですね。

下流の宴

下流の宴