音楽センスを伸ばしたい!

音楽ライター山本美芽による、ピアノレッスンに関する取材日記です。

セミナースケジュールはこちらです。 山本美芽オフィシャルサイト

五嶋みどりがサクラメントにやってきた!!!!

4月10日、わたしの地元、サクラメントのコミュニティシアターに五嶋みどりが来てリサイタルをしてくれました。私は今回、留守番やら会場まで車で乗せてくれる方を探すなどの手配に成功し、何人もの人の助けを借りて、会場に行くことができたんです!

プログラムは、ヒンデミットソナタ作品11、ブラームスソナタ作品78、バッハの無伴奏ヴァイオリンソナタBWV1001、ファリャのスペイン組曲ラヴェルのツィガーヌでした。

私は彼女の演奏会は初めて。どういうすごい演奏をしてくれるのかな? と期待していました。すごい演奏ってどういう演奏? うーんよくわからないけれど、おお〜っと驚かせてくれるような? そんな意味不明の期待は、いい意味で裏切られました。ヒンデミットソナタブラームスソナタも、あまり派手じゃなくて渋い選曲。でも、音程もリズムも音量も歌い方もフレージングも、おそらく、ものすごーく完璧。でもって、過剰な歌い上げとかメロドラマちっくな演出とか一切なくて、すごくストイック。

特に、音が小さくなるにしたがって、会場全体が呼吸を静かに一生懸命おさえて聴き入っていくんです。特にバッハがはじまると無伴奏なので、ほんとうに小さな音でした。

ビブラートあんまりかけないんだなあ、とも感じました。ほんとうに弦の上をすーっとすべらせた、素の音で勝負しているんですね。

あまりにピアニッシモが続くので、息をずーっとひそめているせいか、だんだん耐え切れずに咳き込む人が出てきました。私も途中、花粉のせいもあってのどがカラカラになり、苦しくて咳が! かばんからペットボトルのお水を出してぐっと飲んでなんとかこらえました。演奏中に水を飲むなんてマナー違反だけど、咳が止まらないよりはマシかと。でも、あとからあとから絶えなかったお客さんの咳というのが、必死にみんながピアニッシモに耳を傾けていた証拠なんですよね。

前半の演奏は、完璧でストイックなんだけどそれが魅力的で圧倒的・・・ってところでしたが、最後のファリャ、それからツィガーヌはダイナミックで、すごく楽しかったです。

私の隣に座っていた年配の白人のおじさまは、前半のブラームスで寝てしまって、休憩時間が終わったら帰っちゃったみたいでいなくなっていました。でも、バッハが終わったらスタンディングで拍手する人が現れ、ファリャになってもっと増えて、最後のツィガーヌが終わったら会場全体がスタンディングオベーション

いまどきの女性アーティストって、ルックスとか話術とか話題性とか、いろんなプラスアルファで勝負せざるをえない面が多いと思うんです、たとえクラシックであっても。でも、Midoriさんは、もちろん見た目も素敵でしたけど、ステージでは何もしゃべらなかったし、アンコールもやらないでさっさとひっこんじゃったし、まあちょっとナーバスで愛想ふりまきって感じでもない。にもかかわらず、みんなお客さんは帰るときに大満足な顔でした。ほんとうに音楽の力だけで、これだけアメリカで支持されてるんですね、彼女は。
大都会のサンフランシスコでなく、サクラメントまで来てくれたことに感謝。家に帰ってからテレビをつけたら、ニュースでこのコンサートの模様をレポートしていました。子どもたちが多く聴きに来ていたというのがニュースの切り口だったらしくて、会場で見た5−8歳ぐらいの正装したちびっ子たちがインタビューに「彼女の演奏はすばらしいと思う」と答えている。


確かに子どもが結構いたなと思ったんですが、特別多かったんでしょう。大都会よりも、州都とはいえ中規模の都市のサクラメントのほうが、子どもたちの家から近いから、気軽に出かけられますものね。
今回のコンサート、景気が悪くて、ソロの演奏会だとサクラメント交響楽団の公演よりも経費が4分の1ですむという理由で検討されたらしいんです。まあオーケストラも充分素晴らしい経験でエキサイティングだと思うんですが、子どもたちは、Midoriが来る、といわれたほうが「本物を聴いてみたい!」って意欲をそそられるのかも。

ちなみに私、Midoriさんと同じ、1971年生まれなのです。
プロフィールを見ると、彼女は演奏活動を続けるだけでなく、ずっと心理学の勉強を続けて、2005年にニューヨーク大学で心理学の修士号をとっているんですね! とにかく素晴らしい。良い刺激を受けました。

しばらく彼女のCDをいろいろチェックしてみようと思います。


Live At Carnegie Hall
Live At Carnegie Hall
Ludwig van Beethoven,Richard [1] Strauss,Frederic Chopin,Heinrich Wilhelm Ernst,Claude Debussy,Maurice Ravel,Robert McDonald,Midori