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音楽センスを伸ばしたい!

音楽ライター山本美芽による、ピアノレッスンに関する取材日記です。

セミナースケジュールはこちらです。 山本美芽オフィシャルサイト

シダー・ウォルトン@オークランドYoshi's

ONE FLIGHT DOWN
ONE FLIGHT DOWN
CEDAR WALTON

 先週の日曜日、オークランドのYoshi'sに日帰り遠征でジャズピアノの大ベテラン、シダー・ウォルトンを聴きにいってきました。シダー・ウォルトンといえば、アートブレイキーとジャズメッセンジャーズのピアニストだった人で、華麗なるジャズの歴史を脇役ピアニストとして長い間過ごし、人生の後半になってから自分がリーダーとしてのバンドを組んで息の長い活動をしている人です。でも私は、ふだんアート・ブレイキーを聴いたりする趣味はなく畑違いなので、実はどういう人なのか知ったのは、2年ぐらい前、アメリカに来てからです。それも、村上春樹の「意味がなければスイングはない」という本の最初に、シダー・ウォルトンについての章があって、それを読んだのがきっかけでした。

 最近その本を読み返していて、ヨシズのカレンダーを見ていたら名前を発見。いそいでアメリカのアマゾンで視聴してみたら、とっても聴きやすい正統派のジャズピアノ。75歳のシダー・ウォルトンには膨大な参加作品がありますが、ここ数年、自分の名義で何枚もアルバムを出しているので、それを聴いて予習しつつ、村上さんのシダー・ウォルトン論をじっくり読んでみました。この村上さんの本は、ただ読んでいるだけでも面白いのだけれど、1枚ずつ村上さんが聴いているアルバムを追いかけて、オーバーラップして読んだらもっと面白いんじゃないかと思って、本に紹介されているシダー・ウォルトンのアルバムを探したのですが、古すぎてアメリカでは手に入らないものが多く、あきらめました。それでも今回、ライブで聴いてみて、ははーなるほど、確かにね、と腑に落ちた部分がいっぱいあって面白かったです。
意味がなければスイングはない (文春文庫)
意味がなければスイングはない (文春文庫)
村上 春樹

 クリスプなタッチ、という表現を村上さんを使っていました。クリスプ。crispで辞書をひくと、ぱりぱりした、歯切れのいい、さわやかな、こざっぱりした、とあります。シダーが弾いているのを見ると、まず、彼は年齢的なこともあってそれなりに体重もありそうで、腕にもかなりの重量感がありました。その重そうな腕を、肩のところから1音1音、瞬発力を使って腕を落として弾いていました。

 えっ、こんなに速いソロでばりばり弾くパッセージも、1音1音肩から落としちゃうの!? と、かなり驚き。それはもう、確かに、超クリスプでした。パワフルなような気がするんだけど、がんがん鳴らすフォルテじゃあ決してないんですね。セロリがぱきっと折れるかのように一瞬に力を使い切って、あとはものすごーーーーーく脱力している。だから別に音量は大きくなくて、クールにパラパラ、かろやかに弾いているんです。そのクールなかっこよさがいったいどこから来ているのかというと、あのクリスピーな音抜きには語れないのです。

 もうひとつ、村上さんは、こうも書いています。
「ウォルトンは目新しいスタイルを看板にかかげて売りにしなかったぶん、世間の認知を受けるのに長い時間を要したが、それだけスタイルの罠にはまることなく、また安易な手くせに絡めとられることもなく、自分の音楽をマイペースに誠実に深めていくことができたわけだ。」

 これはどういうことなのか、私としては、強烈な個性を出しすぎず、ある程度オーソドックスで、しかし彼なりの新鮮さを持ったスタイルがあるってことだよな、と読んだのですが、実際に演奏を聴いてみても確かにそんな気がしました。

彼のライブを実際に聴いた村上さんは、「予定調和的に安易な馴れ合いに堕することがない。みんなに少しずつ「前に出て行こう」という気持ちがあるから、演奏を重ねれば重ねるほど、音楽の体温はじりじり上がっていくことになる。」と書いていて、ああ、今回わたしが聴いたときも、そんな気がたしかにしました。じりじり、という気分がまさにぴったり。MCはほとんどなくて、演奏しているミュージシャンたちはみんな神経を研ぎ澄ませつつ、いい感じに緊張感が高まっていきました。

 一緒に連れて行った娘には、ちょっと渋すぎて退屈だったみたいですが、今回一緒につきあって聴いてくれた駐在妻のお友達は、「ニューヨークのジャズクラブとかでやってそうな感じ。リラックスして聴けてすっごくよかった〜」と楽しんでくれたようです。

 編成は生ピアノにウッドベース、ドラムス、テナーサックス、そしてビブラフォン。けっこうサックスやビブラフォンの人が目立っている場面が多くて、ピアノがとにかく中心って感じでもなかったです。一曲ゲストシンガーを入れて歌もやってくれたし。要所要所はピアノでまとめる、ってところかな?

 終演後にシダーさんと写真をいっしょに撮らせていただき、タッチがクリスプで素晴らしかったです〜と伝えると(英語で)、日本語で「ありがとう」といわれました。日本にもたくさん行ったことがある人だから、中国人でも韓国人でもなく、日本人ってわかったのかな? 

 8月のジョージ・デュークのときは黒人が多かったヨシズですが、今回は白人ばっかり! アジア人は私たちだけでした。お昼の子連れOKのマチネ公演だったので、赤ちゃんや2−3歳の子を立って抱っこして、体を揺らしながら真剣に聞いている知的な感じの若い白人カップルが多かったなー。アーティストによって雰囲気が違うのも面白いところです。