音楽センスを伸ばしたい!

音楽ライター山本美芽による、ピアノレッスンに関する取材日記です。

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いまさらですが本田雅人VOEのアルバムについて

本田雅人 with VOICE OF ELEMENTS
本田雅人 with VOICE OF ELEMENTS
本田雅人 with VOICE OF ELEMENTS

7月の発売でしたから、ずいぶん経過してしまいましたけど、このアルバムについて書いてみようと思います。

VOEのことをご存知ない方のために簡単に説明を。
これは元スクェアの4人によるバンドです。T-スクェアは日本を代表するフュージョンバンドで、リーダー安藤まさひろさんのもと、ハイクオリティなメンバーが終結して、メンバー的にもさまざまな変遷を経て現在も活動しています。かつてスクェアで活躍していたけれど、現在はみんなバンドを離れたミュージシャンが集まって、俗称(?)「にせスクェア」、正式名「本田雅人VOICE OF ELEMENTS」というバンドを作り、アルバムリリースに至ったというわけです。

このアルバムは本田雅人さんが6曲、そして松本圭司さんが3曲、須藤満さんが1曲、といった構成になっています。則竹裕之さんは残念ながら曲の提供はなし。則竹さん自身も、このアルバムにはぜひ曲を書きたいと以前に聞きましたが、実現しなかったようですね。

良い意味で、いかにも元スクェアのメンバーらしい、さわやかでスピード感があって、1音1音に妥協がなく神経がゆきとどいたサウンドです。聞いているとドキドキしてきたり、ほっとリラックスできたり、イメージが豊かで聴き手の頭の中を彼らの音楽に塗り替えてしまうような、やさしいようでいて強力なパワーがあります。

そうした点は、本田さんがいた頃の90年代スクェアと共通しているし、当時のスクェアサウンドの発展形らしくも感じられます。しかし何かが違う。

発売から半年以上もこのアルバムを聞いては寝かせ、聞いては寝かせしながら考えてみました。このメンバーが集まった場合、スクェアの曲を聴くことに慣れていたので、聴き手としての私が一種の違和感を感じているのだろう、というのが結論です。

これは私の記憶力の問題かもしれませんが、VOEのメロディは、スクェアと同じような感覚では覚えられないのです。メロディ自体、上にいったり下にいったり音の動きが激しいので、それはまあ当然かもしれないですね。

それによって、何度聴いても飽きにくい、という効果が得られます。それから、メロディだけでなく伴奏にリズムにベースラインに、いろんな方向にバランスよく注意が自然といく聴き方ができます。時々メロディよりもベースラインのほうが覚えやすかったりしますし。

最近になってようやく、この人たちの演奏がスクェアではないことに慣れてきたかなぁ〜という感じです。

ポップでキャッチーな度合いがやや低くなり、もっとサウンド全体の風合いを楽しむような方向に傾いていますね。そこに、メンバーの個性を投影した独特な世界がしっかりと作られていて、聴けば聴くほど「へぇ〜こんなことやってるんだ」と面白い。特に松本さんのダークでポップな感性は異彩を放ってます。楽器の演奏という意味でも非常にハイクオリティで、フュージョン・ファンのマニア心(?)を満たしてくれる「ソロまわし」には感激です。

慣れるにしたがって、この「スクェアっぽいけど微妙にキャッチー度ひくめで別の音楽性を持ったサウンド」はどんどん心地よくなってきました。次回作で果たして、この路線を継続するのか、もうちょっとシンプルな歌っぽいサウンドになるのか、というあたりが気になります。

90年代スクェア、というのをぜんぜん知らない人が聴いたらどう感じるのかなぁ? たぶん「さわやかでカッコよくてスピード感があってバンドっぽいまとまりがあって」…何の違和感もないでしょうね。