音楽センスを伸ばしたい!

音楽ライター山本美芽による、ピアノレッスンに関する取材日記です。

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か〜みのけ、ふっさふさ@TRIX「ART」

ART
ART
TRIX

発売からだいぶ日にちがたっていますが…
カシオペアのドラマー熊谷徳明さん率いるフュージョン・バンド「TRIX」の3枚目のアルバム「ART」が日本から届いたので、毎日聴いています。

TRIXといえば、カシオペアと親戚じゃないかというテクニカル&キャッチーな演奏、そして!! 
ナンセンスな歌詞をサビにのっけて歌ってしまうバカカッコイイ路線で大人気。ライブに行くとハゲカツラにメイドさんのコスプレまでやりながら演奏してくれるサービスぶり。

今回のアルバムでも、当然いろいろやってくれました…!!

1曲目の〈Jungle Circuit〉は…超テクニカル&キャッチー。16分音符のキメに、ユニゾンに、とにかく走って飛んでジグザグの迷路を抜けて…手に汗握る疾走感と、そこはかとなく漂う哀愁。カリフォルニアに来てスムースジャズ漬けになっている今、この哀愁とキメキメな演奏は、まさに日本のフュージョンならではの魅力だと痛感します。名曲です。ぜったいにライブで聴いてみたい!

2曲目はキーボードの窪田さんの曲。ちょっと落ち着いたテンポになり、重量感のある16ビートでギターとオルガンが泣きのメロディを決めてくれます。うんうん、渋い。

3曲目。タイトルは「発毛ファンク」。…軽快でファンキーなイントロ、そして…、きました!!「か〜みのけ、ふっさふさ」!!!! シーシレミ♭、シーシシシ、というなんともいえないメロディライン。…あああ〜、これは!! 口が勝手に「か〜みのけ、ふっさふさ」と歌ってしまう!!!

歌詞といえば歌詞なんですが、この「髪の毛ふっさふさ」を何度も繰り返していくので、いわゆる「リフ」、クラシックでいえばオスティナートみたいなものですね。曲は正統派のジャパニーズ・ギター・フュージョンで、すごくカッコいい、けれども、髪の毛ふっさふさ…。こうやってCDを聴いているだけでも異様に盛り上がってきました。

 TRIXを率いる熊谷さんは、元カシオペアで、カシオペアにいたときから「非常にカシオペアっぽい曲を書く」といわれていた人です。このアルバムにおさめられた曲の大半は熊谷さんの作曲で、これがまた、熊谷さんがいた頃のカシオペアのカラーをベースに、うまく発展させたような感じです。

 ギターが低めの音域で朗々と歌い上げるときの音色は「こりゃ野呂さんのイメージだな〜」とか、かわいらしい音色のエレピが「これは向谷さんのイメージだ〜」とか、思わずつぶやきたくなるほどです。

 ほかにも全員で突っ走る高速ユニゾンに、スラップのベースソロに、とにかくカシオペアファンが好きなカシオペアらしい要素が満載。デビューのときからその傾向はありましたが、3rdアルバムにきて、ますます、カシオペア的な色合いが強まった気がします。(ただし、カシオペアは「髪の毛ふっさふさ」みたいなギャグ路線はやらず、演奏で笑いをとることはありませんでした! そこはTRIXのオリジナリティです)

 こう書くと「ものまねでオリジナリティがない」といってけなしているかのようですが、そうではありません。熊谷さんが作るTRIXの曲には、完全にカシオペアのスタイルを吸収して、自分自身の中から出てきたものとしての説得力があります。

 カシオペアが作り上げた素晴らしいスタイルを土台にすることで、高いレベルから出発して、自由になれたのではないでしょうか。
 
 TRIXのようなバンドが存在するということ自体、カシオペアの音楽スタイルは、クラシックでいう「古典派」「ロマン派」みたいな、ひとつの普遍的な域に達しているのかもしれません。