音楽センスを伸ばしたい!

音楽ライター山本美芽による、ピアノレッスンに関する取材日記です。

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いま理想とされるピアノ奏法とは?

 もちろん私は一介のジャーナリストで、ピアニストでもピアノ指導者でもありません。ですから、望ましい奏法の具体的かつ詳細なあり方について発言するつもりはないのです。

 しかし、現代において理想とされるピアノ奏法というのが、場所により先生により、あまりに食い違っている現実があります。脱力とか、重力奏法とか、ハイフィンガーとか、いろんな言葉が意味不明に飛び交っています。  ピアノという楽器は非常にポピュラーなのに、いったいどうしてこんなことに??

 一部のすぐれた指導者、ピアニストの方々は別として、趣味として気軽にかかわっている学習者、そして指導者の一部も、どうすればいいのか情報が足りなくて困っているのでは? そこで、ジャーナリストとして、文字で論じられる範囲だけでも、「結局どうすればいいのよ?」ということを考えるお手伝いができればうれしい、と思います。

 ピアノ奏法に関しては、いろいろな本が出ています。奏法に関して、目を通す価値があるもののひとつに、シャンドールピアノ教本をあげたいと思います。

シャンドール ピアノ教本―身体・音・表現
シャンドール ピアノ教本―身体・音・表現
ジョルジ シャンドール, Gyorgy Sandor, 岡田 暁生, 大久保 賢, 小石 かつら, 佐野 仁美, 大地 宏子, 筒井 はる香

 シャンドールの名前そのものは、さほど有名でもないかもしれませんね。彼はハンガリー出身で、バルトークコダーイの弟子であり、アメリカに渡ってジュリアードで教えた偉いピアノの先生です。

 「はじめに」のなかに、非常に興味深い一文があります。

以下引用します。

 多くのピアニストは、ショパンの《エチュード》作品10-1や作品10-2を弾く際、あるいはショパン変イ長調の《英雄ポロネーズ》やリストの《葬送》の連続した急速なオクターヴのパッセージを弾く際、筋肉疲労は避けられないものだと信じ込んでいる。しかし私は同意できない。彼らは、疲労の原因は筋肉が弱いせいだと考え、これらの筋肉を鍛えなければならないと強く主張する。これほど真実から遠いことはない! 

指を動かしているのは前腕の華奢な筋肉であり、動きの正確さを受け持つのはこの筋肉である。(中略)

技術というものは、我々の筋肉の強さや持久力にではなく、それらの理想的なコーディネートに基づかなければならないのだ。(引用終わり)

 前腕の華奢な筋肉??? と思った方。
 前腕というのは、ひじから先の腕のことですね。

 手をグーパーしてみてください。

 そのときに、もう片方の手で、前腕を握って、筋肉の動きを感じてみてください。

 もこもこと動いていますよね!?

 そもそも、指先からひじまで、ずっと筋はつながっているわけです。

 もっといえば、グーパーしているときに、上腕(ひじから上)も、わき腹も、背中も、微妙に動いているはずなんですよね。
 
 ピアノを弾くときって、手首から先だけでああだこうだしているイメージがあると思います。でも、結局、手首から先を動かすためには、ちょっと見ただけではわからないけれど、上腕が活躍しているのです。

 まず、自分の体をつかってこの事実を実感するというのが、非常に大事なことだと思います。

 理想的なピアノ奏法を考えていくと、手首から先をメインに使った指奏法vs 腕の重みを使った奏法 という構図が必ず出てきます。そうした文献をああでもないこうでもないと読むにあたって、指と、手首と、前腕と、上腕に対する動きのイメージを慎重に自覚しておくと、大変話がわかりやすくなります。