音楽センスを伸ばしたい!

音楽ライター山本美芽による、ピアノレッスンに関する取材日記です。

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シュトゥットガルト音楽院の謎

シュツットガルト音楽院、という名前をご存知でしょうか。

中村紘子さんが「ハイ・フィンガー」と呼んで批判している、指を高くあげてカタカタ弾くピアノ奏法、というか訓練方法があります。どうやらそのルーツとして重要なのが、シュツットガルト音楽院らしいんです。

井口基成先生の本に「有名なシュツットガルト音楽院のタッチ」という記述があり、「はぁ? 何が有名なの? 全然聞いたことないんだけど」と思っていました。

日本語で、シュツットガルト音楽院についてきちんと書かれた本がいまだ見つからず、英語の本で、やっとそれらしい本にめぐりあいました。

"Famous Pianists & Their Technique" Reginald R. Gerig

500ページ以上の大著で、1974年に出た本です。

この本によると、まず、シュツットガルト音楽院とは、19世紀なかごろにレーベルト(1822-1884)とシュタルク(1831-1884)が中心になってつくられた学校です。

レーベルトとシュタルクは、4巻からなるピアノ教本を編纂し、5刷りまでなったという大変な売れ行きとなりました。

この本には、リストやマルモンテルといった当時の大御所ピアニストが推薦文を寄せました。

 レーベルトとシュタルクは、「テクニックと音楽性は一体となっているべきだ」と考えていたそうなのですが、しかし彼らは、ピアノを弾くときの手の「形」について、ある厳格な考え方をしていました。

 そこの記述が、いわゆるハイフィンガーなのかどうか大変まぎらわしいのですが。

 この本の232ページに、レーベルトとシュタルクの本からの引用があります。

 ピアノのメカニズム:指は曲げすぎず伸ばしすぎもせず弧を描きながら鍵盤の先を弾くように、しかも、すべての指は鍵盤の1インチ上にしっかりと保持しなければなない。どの指も弾く前にある程度の高さまで戻して、それからすばやく(鍵盤に対して)垂直に打ち付ける。

(“strike rapidly and perpendicularly” …このperpendicularlyは「垂直」という意味があり、これが鍵盤と指を直角にしていることではないかと思います)

弾き終わったらもとのポジションに大急ぎで戻す。これが標準的なタッチであって、その修正は、先生の指導を受けながら、曲の性格から必要とされる場合にのみ可能である。

 どうやら、これがハイ・フィンガー的なガンガン叩くタッチのことを指しているようです。