音楽センスを伸ばしたい!

音楽ライター山本美芽による、ピアノレッスンに関する取材日記です。

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読者からのメール

「21世紀へのチェルニー」を読んでくださった読者から、興味深いメールが来ました。

小学生のお嬢さんがチェルニーを順番にやらせる主義の先生に習っていて、もうチェルニーがいやでいやでしょうがないらしいのです。親御さんとしては、「そういうものだから我慢するしかない」と思っていたらしいのですが、私の本を読んで驚かれたとか。別のもので変えられるのだったら、なんとかならないものか・・・と思いはじめたということです。
先生は「チェルニーは50番まで終わらせないとショパンエチュードを弾かせない」というタイプみたいです。

まさに私はこういう人のために本を書いたんですよねー。

しかし、こういう先生に、私の本を引き合いに出して
チェルニーをやらなくてもピアニストになっている人はいるそうです」
と言ったりするのは、禁物です。

過去に、「コルトーの本にハイフィンガーはいけないと書いてあります」
と先生に直訴し、「お前とコルトーは違うんだよ」と
激怒されて一蹴された音大生が山ほどいます。
いま私から見れば、生徒のほうが正しいわけですが、当時としては
泣き寝入りするしかなかった・・・というわけです。

指の形だとか、チェルニーを全部やるというのは、信じている先生方にとって宗教に近い、絶対にゆずれない問題。それを自分よりえらくない人から反対されるというのは、自分を否定されるに等しいけしからん出来事なのです。

また、先生に「基本だからチェルニーは省略できません」といって終わりにされる可能性も大です。そのとき「それじゃしょうがないですね」といって引き下がるのかどうかも考えておいたほうがいいでしょう。

最終的には、みんなと同じように練習曲をやらせて、その面で差がつかないことを優先させたいのか、(現実にはチェルニーを減らしてもその分曲をたくさん弾けば差なんてつかないと思いますが)、それとも、毎日家で練習するときに、生き生きと音楽の喜びを感じながら集中して作品に取り組むことを優先させたいのか。

その部分での覚悟を先生にお伝えするのが、一番大切でしょう。
それでも話が合わない場合は、新しく先生を探すこともお考えになったほうがよいでしょう。
チェルニーに関する問題は、宗教みたいなものなので、考えをゆずれない先生を変えるのは不可能です。

先生を変えるというのは重大問題ですが、お医者さんと同じようなものだと考えれば、自分の信頼できる人を探す大切さはご理解いただけるのではないでしょうか。

結局、お子さんに将来ピアノを生かしてどういう人生を送らせたいのか、ということもかかわってくると思います。
現在は、音大を卒業したものの結局ピアノを弾かなくなってしまった人と、一生趣味で弾きつづける人にわかれているのも現状です。

ちょっと重い話になってしまいましたが、結局、日本社会におけるピアノのおけいこが置かれた問題が、チェルニーにすべて集約されているといっても過言ではないのです。

私自身、本を出すのには勇気がいりましたが、これから「チェルニー全部やらせる主義」の先生と話し合うお母様たちは、私以上に勇気がいると思います。

あくまでも先生のプライドをたてつつ、お子さんの人生におけるピアノの位置づけで、何を優先させたいのか、という視点で話すのが一番ではないかな・・・しかし、心配です・・・。